この先、どこまで減るんだろう——底が見えなかった頃の話
抜け毛は、もっと前からありました。
でもその頃は、「まあ、そのうち治るでしょ」くらいにしか思っていなかったんです。
これは、それが変わったあとの話です。
髪が透けて見えた日から
2024年頃です。ある日、髪が透けて見えることに気づきました。
「あれ?髪、少なくない?」
そこから、一気に髪のことが気になるようになりました。
髪型が決まらない。
分け目が気になる。
鏡を見るたびに、地肌が見えていないか確認する。
それまで、こんなに自分の髪を見たことなんてなかったと思います。
「今よりひどくなったら」が、頭から離れなかった
何度も、そう思いました。
鏡を見るたびに、「今日は大丈夫かな」と確認する。
分け目を見る。上から見る。横から見る。
少しでも地肌が見えていると、また気になる。
昨日より減ってない?
そんなこと、分かるわけないのに。
毎日同じように髪が抜けて、毎日同じように鏡を見て。
それでも、確認せずにはいられませんでした。
今はまだ隠せる。
でも、これが、もっとひどくなったら?
その「もっと」が、どこまでなのかわからない。
どこかで止まるのか。
それとも、まだ減るのか。
「もうこれ以上、減らないで」
髪を見ながら、そんなことを思ったこともあります。
私は、どこまでいくんだろう。
それが、怖かった。
まだ起きていない未来まで、見てしまっていた
髪がほとんどなくなったらどうしよう。
地肌ばかり見えて、ところどころに、ちょろちょろ髪が残っているような……。
そんな姿まで、想像していました。
そこまでいったら、私はどうするんだろう。
「私、坊主でも似合うかな」
ふと、そんなことまで考えました。
今思えば、そこまで先のことを考えなくてもよかったのかもしれません。
でも、当時は違った。
一度減り始めた髪が、どこで止まるのか、私にはわからなかったから。
実際、「どこからウィッグにしよう」と考えたこともあります。
ウィッグが嫌、ということではありません。
ただ、そこまでいったときのことまで、もう考えていた。
それくらい、先が怖かったんだと思います。
人の髪が、目に入るようになった
髪のボリュームが少なく見える人。
自分と同じくらいの年代の人。
自分より年上なのに、髪がふんわりしている人。
以前より、目がいくようになりました。
その人が悩んでいるかなんて、もちろんわかりません。
ただ、私は勝手に自分を重ねていました。
後ろから見たら?
上から見たら?
誰かが私の頭を見て、「髪、少ないな」と思っていたらどうしよう。
実際に誰かが見ていたわけじゃない。
それでも、見られているような気がしました。
「いいな」のあとに、悔しくなった
金髪にしている人を見た。
好きな色に染めている人を見た。
髪を結んだり、巻いたり、好きな髪型をしている人。
いいな、と思いました。
私も、何も気にせずそうしたかった。
でも私は、「これ以上、髪を傷めたらどうしよう」と考えていた。
染めたいのに、染めることも怖い。
髪型を楽しみたいのに、「この分け目、目立たないかな」と先に考えてしまう。
その人たちが悪いわけじゃない。
分かってる。
分かってるのに、悔しい。
なんで私は、髪のことばかり気にしてるんだろう。
鏡を見ても髪。
人の髪を見ても髪。
スマホを見ていても、気づけばまた髪のことを検索している。
もう、うんざりでした。
でも、気にしないようにしても、気になる。
髪のことを考えていない時間が、なくなった
それまで、髪にそこまでお金をかけていませんでした。
でも気になり始めてから、シャンプーを変えたり、サプリを調べたり、いろいろ試すようになりました。
本当は、もっと別のことにお金を使いたい。
なのに、気づけばまた、髪のことを調べている。
髪のことを考えていないはずの時間にも、ふと、また戻ってくる。
何をしていても、頭の隅に髪がいる。
そんな感じでした。
誰にも言えなくて、一人で検索していた
髪のことは、誰かに気軽に相談できるタイプではありません。
「最近、髪が薄くなってきて……」と、人に話すこともほとんどできませんでした。
だから、一人で検索していました。
「3か月でこんなに変わりました」という人を見つける。
でも、私はそんな短期間では変わらない。
それでも、また検索する。
また調べる。
また自分の髪を見る。
その繰り返しでした。
普通のことが、少しずつ手からこぼれていく
髪のボリュームやツヤがなくなると、一気に年を取ったように感じました。
おばさんっぽくなった。
そんなふうに思うことも増えました。
このままもっと老けて見えるようになったら、どうしよう。
今まで当たり前だった、髪を染めること。
髪型を楽しむこと。
何となく鏡を見ること。
そういう普通のことが、少しずつ、手からこぼれていくようでした。
今の状態そのものより、この先どこまでいくのかわからないことのほうが、ずっと怖かった。
今も、抜け出し切ったわけではない
今も、髪の悩みがなくなったわけではありません。
今だって、もっとボリュームがほしい。
もっと綺麗な髪になりたい。
鏡を見て、「もう大丈夫」と思えるわけでもない。
ただ。
2024年頃の自分を思い出すと、ひとつだけ思うことがあります。
あの頃は、この先ずっと減り続けると思っていた。
でも、そうとは限らなかった。
すぐに変わったわけじゃない。
「3か月でこんなに変わりました」なんて、私にはなかった。
何年かかけて振り返ったら、一番ひどかった頃よりは、少しマシになっていた。
本当に、少しです。
でも、あの頃の私からしたら、その「少し」が大きかった。
あの頃は、どこまで減るのか分からなかった。
今だって、全部解決したわけじゃない。
それでも、あの頃の私が想像していたところまでは、まだ行っていない。
それだけで、今は少しほっとしています。
老いに抗う、なんて大げさだけど。
たぶん私は、今日もそんな感じです。
—— 前髪すかすかのぬー

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